東京高等裁判所 昭和51年(行ケ)139号 判決
一 請求の原因一のうち、原告らが商標権者である本件商標について、その構成、指定商品、登録出願及び登録の各年月日並びに商標登録無効の審判の請求から審決の成立に至るまでの特許庁における手続の経緯に関する事実は、当事者間に争いがなく、新旧コクヨの会社の変遷に関する事実は、被告において明らかに争わないから自白したものとみなされる。
二 請求の原因二の、審決の理由の要点に関する事実は、被告において明らかに争わないから自白したものとみなされ、各引用商標の構成、指定商品並びに登録出願及び登録の各年月日に関する審決の摘示(ただし、引用A商標及び引用C商標の構成に関するものを除く。これらについては、三(三)(1)に後述。)については、原、被告とも争わないところである。
三 そこで、原告ら主張の審決の取消事由の有無について検討する。
(一) 審判手続の中断
審決に表示された請求人コクヨ株式会社が旧コクヨであるとの、原告ら主張の事実は、被告において明らかに争わないから自白したものとみなされる。そして、前記一によれば、旧コクヨは、当初本件審判を請求したときは、商号を株式会社黒田国光堂と称し、後に商号をコクヨ株式会社と変更し、昭和四四年一二月五日新コクヨに吸収合併して解散したものであり、新コクヨは、国誉商事株式会社が昭和四四年一〇月一日商号をコクヨ株式会社と変更し、同年一二月五日その旨の登記を了し、かつ、右のとおり同日旧コクヨを吸収合併したものである。本件審判のされたのは、昭和五一年一〇月五日であるから、その時には、旧コクヨは消滅しており、コクヨ株式会社の商号で存在する法人は新コクヨである。旧商標法施行規則第一六条において準用する旧特許法施行規則第二四条ノ二の規定は、審判の当事者たる法人が合併によつて消滅したときは、審判手続は、合併後存続する法人がその手続を受継ぐまで中断する旨規定しているが、成立について被告において明らかに争わないから自白したものとみなされる甲第一号証(本件審決謄本)によれば、本件審判請求人には委任による代理人のあることが認められ、旧商標法施行規則第一六条において準用する旧特許法施行規則第二七条の規定によれば、委任による代理人のある間は、旧特許法施行規則第二四条ノ二の規定の適用が排除されるのであるから、本件審判手続は中断していないことになる。審判手続が中断していない以上、旧コクヨを審判請求人と表示してされた審決も違法ではなく、原告らの主張は採用の限りでない。
(二) 審判請求人の適格
(1) 弁論の全趣旨によれば、旧コクヨは、同社は旭の図形内の巻紙ようの図形に「コクヨ」の文字を書いた標章を和洋帳簿、複写簿、人名簿、複写紙、書翰箋及び状袋等の商標として使用する者であり、本件商標が、旭の図形内の巻紙ようの図形内に「タイヨー」の文字を書いて成る商標であるから、本件商標は旧コクヨ使用の商標に、外観上類似し、またその指定商品も相抵触すると主張するものであることが明らかである。
(2) 旧コクヨと原告中川製袋との間に、原告らによる本件商標の採択を支持する合意が存在するとの、原告ら主張の事実を認めるに足りる証拠はない。
(3) 右(1)(2)によれば、旧コクヨは、本件商標登録の無効の審判を請求するにつき利害関係を有するものということができ、右利害関係を肯定した審決の判断に誤りはない。
(三) 事実の認定について
(1) 引用A商標及び引用C商標には「コクヨ」の片仮名文字を多数、緑色で綿密に斜書きしたものを、同色かつ多数の平行斜線間に配した下図があるのに、審決はこれを無視しているとの、原告ら主張の事実は、被告において明らかに争わないから自白したものとみなされる。しかしながら、成立について被告が明らかに争わないから自白したものとみなされる甲第八号証の一、二(引用A商標及び引用C商標の各見本)に照らすに、右の「コクヨ」の片仮名文字は、看者をして一見淡緑色の細かい直線図形を一面に散らした下地の連続模様ないし単なる斜縞模様と認識させる程度のものであつて、各引用商標の要部とは解されないから、本件商標と各引用商標との類否判断に影響を及ぼす程のものではなく、審決が右の下図について特に取り上げて説明しなかつたからといつて、審決を不当とするに足りるものではなく、原告らの主張は採用の限りでない。
(2) 原告らは、引用D商標が昭和四八年一二月一二日商標権の存続期間の満了によつて消滅し、引用A商標ないし引用C商標が、いずれも適式な、商標権の存続期間の更新登録の出願がなく、昭和四七年一二月四日商標権の存続期間の満了によつて消滅しているから、昭和五一年一〇月五日なされた審決に引用A商標ないし引用D商標が引用されていることは、事実の誤認である旨主張するが、本件商標が各引用商標と類似して無効であるかどうかを判断する基準時点は、不登録事由いかんにより異なるが、遅くとも本件商標の登録査定の日である昭和三四年三月二〇日(被告において成立につき自白したものとみなされる甲第三号証により明らかである。)であるから、その基準時点以後に右各引用商標の商標権が消滅しているとしても、これらの商標を引用してはならないものではなく、また、これらの商標権の消滅を認定する必要もなく、原告らの主張は採用の限りでない。
(四) 商標の類否判断
本件商標と各引用商標とを対比するに、外観上の共通点は、図案化した太陽の図形(その光芒の先端を全体として円になるように切り離してある。)内に巻紙ようの図形を白抜きにし、その内部に片仮名文字を書いて、成る(ただし、引用B商標にあつては、片仮名文字が書かれてない。)点であり、外観上の主な相違点としては、本件商標にあつては、太陽の図形内に白抜きに表わされた巻紙ようのものがやや右上がりに開かれ、左右の巻返しが逆に表わされているのに対し、各引用商標は、太陽の図形内に白抜きに表わされた巻紙ようのものが両側を下げてやや丸みを持たせて表わされ、左右の巻返しが対象である点、各引用商標が前記巻返し部分の外側にそれぞれ三個の桜花を配して成るのに対し、本件商標にはそれが描かれていない点、さらに、巻紙よう図形内に書かれた片仮名文字が本件商標にあつては「タイヨー」であるのに対し、各引用商標にあつては「コクヨ」である(ただし、引用B商標にあつては、文字は書かれてない。)点があげられる。ところで、我々の日常経験によれば、一般に取引者、需要者は、必ずしも商標の構成を細部にまでわたり正確に記憶し、想起するものとは限らず、商標全体の主たる印象によつて商品の出所を識別する場合も少なくないことが認められるのであつて、このような状況の下においては、本件、引用両商標が同色で同一の大きさで表示される場合、看者は前記の共通点に最も強く印象づけられ、前記の各相違点にはそれ程注意を引かれず、両商標の図形全体の印象が極めて近似するに至るものと解される。したがつて、時と所を異にして離隔的に観察するとき、また、迅速を旨とする商取引において一見して識別を要するときなどにおいて、外観上互に紛れやすく、取引上混交を生じさせるおそれがあり、両商標は、類似の商標といわざるをえない。
なお、原告らは、本件商標においては、旭の図形が主要部でなく、「タイヨー」の文字が主要部であると主張し、その根拠の一つとして、本件商標は、明治年代に登録された登録第五〇五〇六号商標「太陽」の連合商標として登録されたものであるが、右の登録商標「太陽」が存在しながら各引用商標が登録されており、また、日之出、朝日の図形の如きは社会一般にありふれたものであることを挙げ、さらに、日之出、朝日の図形を採り入れた種々の登録商標を証拠として提出しているが、右の事実、証拠も本件商標と各引用商標との類否に関する前記の判断を左右するものではない。
そして、本件商標の指定商品が、各引用商標の指定商品に包含され、抵触するとの審決の判断は、原告らの争わないところである。
したがつて、本件商標が旧商標法第二条第一項第九号の規定に違反して登録されたものであるから無効であるとする審決の判断に誤りはない。
(五) 旧商標法第二条第一項第八号について
旧商標法第二条第一項第八号の規定は、登録されない商標として、「取引者又ハ需要者ノ間ニ広ク認識セラルル他人ノ標章ト同一又ハ類似ニシテ同一又ハ類似ノ商品ニ使用スルモノ」を挙げるが、他人の標章が登録商標であつても、取引者又は需要者間に広く認識されるものであるときは、その標章に関しても右法条の適用が妨げられないと解するのが相当である。そして、引用A商標が本件商標の登録出願前既に商品和洋帳簿、複写簿、人名簿、複写紙、書翰箋及び状袋等に使用され、取引者、需要者間に広く認識されていることは顕著な事実であり、また、原告らの明らかに争わないところであるから、前記(四)の事実関係の下に、審決が本件商標登録について右法条違反を挙げている点に誤りはない。
(六) 旧商標法第二条第一項第一一号について
前記(四)で述べたところによれば、本件商標は、各引用商標の商標権者である旧コクヨの業務に係る商品と誤認又は混同を生ぜしめるおそれがあるということができ、審決が本決商標について旧商標法第二条第一項第一一号を適用した点に誤りはない。
以上のとおりであり、原告ら主張の審決の取消事由は肯認できない。
四 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告らの本訴請求を失当として棄却する。